手付貸与の禁止とはどのようなルールなのか?
不動産売買で発生する手付金は、買主から売主に対して支払われるものです。
また、このとき不動産会社を介し、買主⇒不動産会社⇒売主という流れで支払われるのが一般的ですが、不動産会社は“手付貸与の禁止”というルールを守る必要があります。
今回はこちらのルールについて解説します。
手付貸与の禁止とは?
手付貸与の禁止とは、宅地建物取引業に対する業務規則の一つで、契約の誘因に際し、手付金の貸付など信用の供与をしてはいけないという規制のことをいいます。
わかりやすくいうと、不動産売買の仲介業者が相手方に金銭を貸したり、貸す約束をしたりすることで契約を結ばせる行為であり、申込の勧誘そのものが不可とされていて、行った業者は契約の成否にかかわらず処罰されます。
ちなみに、ここでいう処罰とは監督処分と呼ばれるもので、手付貸与を行った不動産会社は、行政機関による指示や業務の停止命令、免許の取り消しなどが行われることがあります。
なお、行政機関が行う指導や助言、勧告、検査などについては、監督処分には該当しません。
なぜ手付貸与は禁止されているのか?
不動産会社は、不動産売買を仲介する立場として、できる限り早く売買を成立させたいと考えます。
しかし、宅地建物の売買は、貴重かつ高額な財産を対象としていて、多くの一般消費者にとっては、一生に一回しかないビッグイベントです。
宅建業者は、免許を受けてこのような重要な取引に関与することができる立場であることから、安易に取引の成立を急がせることがあってはいけません。
また、手付金を貸与することは、買主からすれば、不動産会社に借金をすることに近いです。
そのため、後で気が変わり、契約を取りやめようとしても、借金に近い性質ゆえに、やめるのが難しくなります。
このような理由から、宅建業法では手付金について、宅建業者の基本的義務としての信義誠実の原則を具現化するルールとして、貸付その他信用の供与をすることにより、契約の締結を誘引する行為を禁じています。
信用の供与に該当するケースとしないケース
手付貸与の禁止というルールでは、宅建業者である不動産会社から、買主に信用の供与をすることが禁止されています。
また、信用の供与とは、手付金の貸与の他にも、以下のようなことが該当します。
・手付金の後払いや分割払い
・手付としての約束手形の受領
・手付予約をした場合における宅建業者による依頼者の当該予約債務の保証行為等
ちなみに、手付金を減額し、契約を誘引する行為については、信用の供与に該当しないため、不動産会社は買主に対して実施することが可能です。
その他、手付金に関する金銭貸借の斡旋についても、実施することが認められています。
ここでいう金銭貸借の斡旋とは、手付金を支払うのが困難な買主に対し、融資が可能な銀行を紹介することなどが挙げられます。
手付金の貸与が行われる際によくある流れ
手付貸与は宅建業法によって禁止されていますが、悪質な不動産会社の中には、それを理解した上で買主を貶めようとする業者も存在します。
よくある流れとしては、まず金銭を用意せず、物件の下見に来ただけの顧客に対し、割高な物件を巧みなセールストークで売り込みます。
これにより、顧客はすっかりその気になりますが、金銭を持ち合わせていないため、「お金が用意できたらまた来ます」という流れになります。
しかし、手付金を準備する間に冷静になると、勧められた物件は割高だと顧客に気付かれるかもしれません。
そこで、不動産会社は「他の人に取られる前に手付金を支払った方が良いですよ」「手付金は一度うちが立て替えておきます」などといって契約させます。
その後、顧客は物件が割高なことに気付きますが、手付金を放棄して契約を解除するには、不動産会社が立て替えた金額を返還しなければいけません。
返還ができない顧客は、手付金を放棄して逃げることができず、そのままズルズルと住宅ローンを組まされ、割高な物件を買わされる羽目になります。
そのため、不動産会社とのやり取りの中で、「これは手付貸与では?」ということがあったら、すぐに契約を中止し、弁護士などの専門家に相談すべきです。
契約勧誘の局面におけるその他の禁止事項
不動産会社は、手付貸与だけでなく、契約勧誘の局面において、以下のような行為も禁止されています。
・宅建業者の商号や名称、契約の締結について勧誘を行う旨を告げずに勧誘を行う
・迷惑な時間に電話、訪問する
・深夜の勧誘により相手方を困惑させる
そのため、不動産売買を行う買主は、このような行為があった場合も、速やかに弁護士に相談し、依頼する不動産会社を変更してください。
まとめ
ここまで、手付貸与の禁止というルールについて詳しく解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
手付金を支払うのが厳しい買主にとって、不動産会社による貸与は一見お得なサービスのように見えます。
しかし、こちらは基本的に悪質な不動産会社の手口であり、後々買主が大きな損失を被ることは目に見えているため、ついつい釣られてしまわないように注意しましょう。