相続

不動産相続の名義変更で“委任状”を使用するケースとは?

不動産を相続した後、相続人はその物件の名義変更を行います。
また、場合によっては、名義変更の際に“委任状”が必要になることがありますが、一体どんなときに必要で、逆にどんなときには不要なのでしょうか?
作成方法と併せて解説しますので、気になる方はぜひ参考にしてください。

委任状の概要

委任状は、何らかの事務を他の方に行ってもらうときに作成する文書です。
正確にいうと、本人に代わって代理人が本人のための意思表示である旨を相手方に告げ、法律行為を行う権利である“代理権”を与えるためのものです。
ちなみに、代理権には“任意代理権”と“法定代理権”の2種類があり、それぞれ以下のように意味が異なります。

代理権の種類 意味
任意代理権 本人の依頼に基づいて発生する代理権
法定代理権 法律の規定に基づいて発生する代理権

委任状の作成によって発生する代理権は、本人の依頼に基づいているため、任意代理権に該当します。

不動産相続の名義変更で委任状がいるケース、いらないケース

では、前述の委任状の特性を踏まえた上で、不動産相続の名義変更で委任状がいるケース、いらないケースを見ていきましょう。

必要なケース

相続人が他の人物に名義変更をしてもらう場合には、委任状を用意しなければいけません。
例えば、相続人本人が時間を確保できず、相続不動産の名義変更ができない場合に、子どもに頼んで登記手続きを行ってもらう場合などでも、委任状は必要です。
ちなみに、委任状がない場合、あるいは委任状の内容が適切でない場合、名義変更を代わりに行ってもらうことはできませんので、注意してください。

不要なケース

不動産の相続人本人が名義変更をする場合は、もちろん委任状は必要ありません。
不動産の相続人として、遺言書に記載されている長男が、そのまま名義変更を行う場合などですね。

例外のケース

先ほど、他の人物に相続不動産の名義変更を依頼する場合は、必ず委任状が必要になるという話をしました。
ただ、1つ例外があります。
それは、名義変更を行うのが“法定代理権”を持つ人物である場合です。
これも先ほど解説したように、法定代理権を持つ人物(法定代理人)は、法律上当然に代理権を得ています。
そのため、本人がわざわざ委任状を作成して、代理権を与える必要がないのです。
ちなみに、法定代理権を持つ人物には、以下が該当します。

・親権者
・成年後見人
・未成年後見人

委任状の作成に資格は必要?

委任状を作成するにあたって、特に資格は必要ありません。
後ほど詳しく解説しましが、誰が誰にどのような権限を与えるかといった必要事項を記載すれば、誰でも作成できます。

また、誰に委任するかについても、委任者本人が自由に決定できます。

ただし、司法書士法や弁護士法により、他人から依頼を受け、業務として不動産の権利に関する登記申請の代理を行うことができるのは、司法書士や弁護士に限定されています。

登記申請の代理が業務として行われていない場合、誰でも登記申請を代理して問題ありませんが、反復継続して行われていたり、報酬を受け取って登記申請の代理を行ったりすると、司法書士法や弁護士法に違反してしまうことになるため、注意してください。

ちなみに、委任者本人が、司法書士などの専門家に対し、登記申請に関する権限を授権する旨の委任状を作成し、代わりに相続登記を行ってもらうことは可能です。
禁止されているのは、あくまで委任される側がプロではないにもかかわらず、業務として名義変更などの代理を務めることであり、司法書士に依頼することは問題ありません。

相続登記を司法書士に依頼する場合の費用について

不動産相続の名義変更では、登記事項証明書の発行や、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本の取得など、必要書類の取り寄せに費用がかかります。

さらに、法務局への申請費用として、登録免許税も必要となります。
相続人が相続登記をする場合、不動産の固定資産税評価額の0.4%が登録免許税になります。

ちなみに、これらの相続登記を司法書士に依頼する場合、報酬として10万円程度の費用が発生します。
報酬の定め方については、一律に“相続登記〇万円”と定めている司法書士事務所もあれば、“遺産分割協議書の作成〇万円、戸籍等収集代〇万円…”と細かく定めているところもあります。

なお、司法書士報酬については、金額が追加、加算されるケースもあります。

例えば、不動産の数が一定数以上の場合や、不動産の価格が高額な場合、法定相続人の数が多い場合などは、それぞれ数量や金額に応じて加算されます。

その他、遺産分割協議書を作成した場合、収集しなければならない戸籍の数が多い場合なども、司法書士に依頼するための費用は高くなりがちです。

また、兄弟姉妹間の相続、代襲相続、養子縁組などにより、相続関係が複雑になっている場合や、不動産の所在地を管轄する法務局が複数に及ぶ場合などにも、加算されるケースがよく見られます。

実際に司法書士報酬が追加、加算されるケースやそれぞれの金額については、直接司法書士事務所にて確認するようにしましょう。

委任状の作成方法について

委任状を作成する際は、以下のルールを守らなければいけません。

・住所の記載について
・不動産の表示について
・登記の目的について
・原因について
・相続人情報について

住所の記載について

委任をする本人や代理人の住所は、住民票に記載されているものを正確に書き写す必要があります。
省略されていたり、住民票の内容と相違があったりすると、正式な委任状として認められない可能性があるため、注意しましょう。

不動産の表示について

名義変更の対象となる不動産(土地、建物)の情報は、“全部事項証明書”をチェックしながら、これも正確に書き写します。
具体的には、以下のような情報です。

不動産の種類 記載情報
土地 所在、地番、地目、地積
建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積

登記の目的について

相続不動産の名義変更をする目的は、被相続人がどのような状態で不動産を所有していたかによって変わってきます。
被相続人が単独で所有していた場合、名義変更の目的は“所有権移転”となりますが、共有していた場合は“持分全部移転”となるため、間違えないように注意しましょう。
ちなみに、どのように所有していたのかがわからない場合は、全部事項証明書で確認することができます。

原因について

不動産相続に伴う名義変更の原因は、当然“相続”です。
ただ、委任状には原因だけでなく、相続がいつ発生したかについても記載しなければいけません。
書き方としては、“原因 令和〇年〇月〇日 相続”といった形です。
また、相続開始日は、被相続人が死亡した日であるため、戸籍謄本、除籍謄本をチェックすれば、正確な日付を記載することができます。
これに関しても、内容が正しくないと委任状が無効になる可能性があるため、注意しましょう。

相続人情報について

委任状には、不動産を新たに引き継ぐ人物の情報も記載します。
また、引き継ぐ相続人が1人ではなく複数である場合は、それぞれがどれだけ持分を引き継ぐのかについても記載しなければいけません。
もちろん、各相続人の住所に関しても、以下のように個別に記載します。

“東京都〇〇区〇番〇号
持分2分の1 〇〇〇〇(相続人Aの名前)

神奈川県〇〇市〇〇番○○号
持分2分の1 ○○○○(相続人Bの名前)“

委任状作成時の注意点

不動産の名義変更などで委任状を作成する場合は、トラブルが発生しないよう、以下のことに注意してください。

・白紙委任状を作成しない
・書き間違いには訂正印を押す

白紙委任状を作成しない

委任状に記載する内容は前述した通りですが、こちらの内容の一部がまだ未確定である場合、その部分を空欄にして委任状を作成します。
こちらが白紙委任状です。

こちらは、名義変更等を誰に委任するか、どのような登記を申請するかといった細かい内容を決める前に、その他の部分だけ作成できるため、実際詳細が決定したときにすぐ動き出すことができ、便利ではあります。

しかし、場合によっては、空欄の部分に本人の意図しない内容を勝手に記載され、損害を被るおそれもあります。

例えば、委任者本人が相続登記の代理人を依頼しようと人物が、本人の兄弟であるケースで、また別の兄弟が代理人候補と揉めているとき、空欄部分に揉めている別の兄弟が自らの名前を記入したり、まったく異なる登記内容を記入したりといった、嫌がらせめいたことが行われる可能性もゼロではありません。

そのため、便利ではありますが、取り返しのつかないことになるのを防ぐためにも、白紙委任状の作成は避け、相続登記等に関するすべての事項が決定したタイミングで、空欄が一切ない委任状を作成すべきだと言えます。

書き間違いには訂正印を押す

委任状を作成する際、記載内容に間違いがあった場合は、その箇所に二重線を引き、上に印鑑を押すことで訂正できます。

このとき使用する訂正印は、必ず委任状に押印した印鑑でなければいけません。
また、訂正印同士は重ならないように、二重線の上に必ず押印します。

これらのルールを守っていなければ、適切な委任状として認められない可能性があるため、注意が必要です。

ちなみに、書き間違いがあった場合の対処法としては、最初から委任状の余白に訂正印を押しておく捨印という方法もありますが、こちらは司法書士などの専門館に依頼する場合以外はおすすめできません。
なぜなら、捨印を悪用することにより、代理人や第三者は、勝手に委任された内容を改変することができるからです。

そのため、多少面倒かもしれませんが、書き間違いがあった場合には、その都度訂正印を押すことをおすすめします。

もちろん、書き間違えた部分を黒く塗りつぶしたり、修正液や修正テープを使用したりすることは認められていません。

まとめ

ここまで、不動産相続の名義変更において委任状を使用するケースや、細かい作成方法について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
“他人に名義変更を依頼するための書類”と聞くと、簡単に作成できるように聞こえますが、実際は記載事項も多く、作成にはある程度の知識と時間が必要です。
失敗しないように、ぜひ早めに予習しておいてください。

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