相続

“違法建築”の不動産を相続した場合の対処法について

被相続人から受け継いだ不動産は、必ずしも法律上適切なものであるとは限りません。
相続人の中には、相続した後、その不動産が“違法建築”であることに気づくという方もいます。
では、違法建築の不動産を受け継いでしまった場合、一体どのように対処すれば良いのでしょうか?
違法建築の概要と併せて解説します。

違法建築の概要

建築基準法あるいはこれに基づく法令、条例に違反して建物を建てること、もしくはその建物自体を“違法建築”といいます。
具体的には、以下の建物が違法建築の不動産に該当します。

・建築前、行政に建築計画が問題ないか確認せずに建築したもの
・建築計画と異なる建物を建てたもの
・建築後、増改築を行い違法になったもの など

既存不適格建築物との違い

違法建築と似通ったものに、“既存不適格建築物”というものがあります。
違法建築と混同している方も多いですが、これらはまったくの別物であるため、注意してください。
既存不適格建築物とは、建築時には何の問題もなかったものの、その後法改正などが行われ、現行の法令等に適合しなくなった建物を指しています。
そのまま放置していても、違法建築という扱いにはなりませんが、一定の範囲以上の増改築を行う場合は、現行法への適合が求められます。
違法建築、既存不適格建築物の違いについては、以下の表でまとめておきますので、ぜひ参考にしてださい。

違法建築 既存不適格建築物
概要 建築基準法などに違反している建築物 建築当時は適法だったものが、その後の法改正などによって適合しなくなった建築物
安全性 極めて低い 低い
違法か否か 違法 違法ではない

既存不適格建築物の例

既存不適格建築物のわかりやすい例としては、耐震基準が挙げられます。

耐震基準は災害を経て改正が繰り返されていますが、大きく変わったのは1981年です。
一般的に改正後の基準を新耐震基準、改正前の基準を旧耐震基準といいます。

1981年の改正前に建てられた建物には、現行の耐震基準を満たさないものもあります。
他には、現行法の接道条件を満たしていない物件も既存不適格建築物です。
用途地域や建蔽率が変わったことで、不適格になることもあります。

また既存不適格建築物について用途変更や増築をせず、使い続けることは可能です。
しかし、倒壊の危険があったり不衛生だったりする物件は注意が必要です。
このような物件は行政から除去修繕、使用制限などを命じられる可能性があります。

不動産相続では、何十年も前に建てられた古い物件を相続することも多いです。
そのため、既存不適格建築物を相続する可能性も十分にあります。

なぜ違法建築の不動産が生まれるのか?

違法建築の不動産が生まれる理由は、基本的に施工主の確認不足や不注意です。

建物を建てる際には、建築物が法的に問題ないか確認が行われます。
建築段階では建築確認、建築後は完了検査にて確認します。

また新築時だけでなく、増改築時にも確認が必要です。
しかし増築面積が10㎡未満の場合は確認が不要(防火地域外、準防火地域外)です。
そのため基準をオーバーしていることに気付かないことがあります。
こちらが違法建築となってしまう主な原因です。

ちなみにこのような確認不足や不注意は、施工業者が原因のものもあります。

違法建築かどうかを確認する方法

相続した不動産が違法建築かどうかは、検査済証の有無で確認できます。

ただし相続した建物が建ったときは10~30年前である可能性もあります。
こちらは違法建築ではなく、既存不適格建築物になっているかもしれません。
繰り返しになりますが、既存不適格建築物は違法建築とは別物です。

もし検査済証が見つからないのであれば、建物のある住所地の役所を訪れましょう。
役所には建築台帳があります。
記載があれば、検査済証に代わる証明書を発行してもらえます。

ただし極端に古い建物については、再発行ができない可能性もあります。
このような場合は役所に出向き、さまざまな管轄の部署で調べることになります。
例えば接道する道路であれば道路課、建蔽率・容積率などは建築指導課で調べます。

また自身での調査はかなりの労力がかかります。
そのため有料にはなりますが、建築士に依頼するのも一つの手です。

違法建築の不動産を相続するデメリット

被相続人から受け継いだ不動産が違法建築だった場合、相続人には以下のようなデメリットがあります。

・安全を確保できない
・行政指導が入る可能性がある
・売却しづらい

安全を確保できない

違法建築の不動産は、安全性が確保されていない可能性が高いです。
なぜなら、建築確認を受けていなかったり、安全性を無視した増改築がされていたりするからです。
よって、相続人がそのまま住居として使用するのは危険だと言えます。

行政指導が入る可能性がある

違法建築の不動産は、行政から使用禁止、移転、除却といった指導が入る可能性があります。
そのため、居住用であっても賃貸であっても、そのまま長期間使用するのは難しいと言えます。

行政指導が入るケースは稀

違法建築の不動産は行政指導が入る可能性がありますが、こちらは稀なケースです。

仮に近隣住民から苦情が入っても、行政は是正命令を下したがりません。
こちらは違法な建物ではあるものの、すでに人が住んでいることが理由です。

建築中であれば、行政も建築基準法違反で対応することができます。
しかし建物が完成して住んでいるとなると、今度は民法の問題になってきます。
つまり財産権が絡んでいるため、むやみに手出しできないということです。

実際、違法建築だからといて取り壊しの命令が下った事例はほとんどありません。
もちろん可能性はゼロではありませんが、そこまで不安になる心配はないと言えます。

売却しづらい

違法建築の不動産は、なかなか買い手が付きません。
これの大きな理由としては、買い手が違法建築の不動産を購入する際、銀行融資を受けられないことが挙げられます。
ノンバンクなど高金利の融資であれば、違法建築の不動産を購入する際でも利用できますが、そこまでして購入するケースはごく稀です。

違法建築の不動産を相続したときの対処法

違法建築の不動産は、そのまま相続人が利用するのも危険ですし、買い手もなかなか見つかりません。
それでも、なるべく早急に処理したいという方は、なんとか物件の良さをアピールしたり、売れやすい状態にしたりして、売却する方向で手続きを進めるしかありません。
違法建築の不動産を売買する際は、以下のポイントを押さえましょう。

・広めの物件であることをアピールする
・周辺の土地を買い取ってから売却する

広めの物件であることをアピールする

違法建築の不動産の多くは、容積率や建蔽率をオーバーしていることが多いです。
よって、通常よりも広めの物件であることをアピールすれば、買い手がつく可能性は十分にあります。

周辺の土地を買い取ってから売却する

接道義務をクリアしていないことが理由で、再建築不可になっている違法建築の不動産もあります。
このような不動産を相続した場合は、周辺の土地を買い取り、接道義務を満たした上で売却することをおすすめします。

違法建築の不動産を売買する際の注意点

相続した違法建築の不動産を早く処理したい気持ちはわかりますが、売却の際は決して焦ってはいけません。
まず、違法建築の物件を売買する際は、“違法建築である”ということを必ず買い手に伝える必要があります。
これは、違法建築の不動産における重要事項であり、もし伝えずに売却してしまったら、売り手の方は損害賠償を請求される可能性もあるため、注意しましょう。
また、現在建っている建物が、容積率や建蔽率をオーバーしている場合、新たに建て替える建物は、それよりかなり小さい建物になってしまうことも、なるべく伝えておくべきです。
つまり、違法建築の不動産にはどんなデメリットがあるのか、買い手にしっかり伝え、納得した上で購入してもらうべきだということです。

違法建築の不動産は売却価格も安くなる

違法建築の不動産売却における注意点としては、売却価格が安いことも挙げられます。

違法建築の場合、再建築不可の土地は建て替えができません。
また増改築をする際は家を小さくする必要があります。
こちらは容積率をオーバーしているからです。

しかし、住宅ローンの審査基準には“建築基準法を守っているか”という項目があります。
そのため、違法建築は大規模なリフォームや建て替えができません。

このようなデメリットは、不動産売却における買い手を遠ざけやすいです。
よってもし買い手が見つかったとしても、売却価格は安くなると考えておきましょう。

違法建築物の不動産売却における流れ

違法建築の不動産を売却する際は、まず売却を依頼する不動産会社を選びます。
ただし不動産会社によっては、違法建築物の取り扱いを断るところもあります。
そのためスムーズな売却を実現するために、複数の不動産会社に査定を依頼しましょう。

一括査定を利用すれば、1回の入力でまとめて査定依頼を出せるので便利です。

査定が終わり売却を依頼する不動産会社が決定したら、次は内見の対応を行います。
具体的には不動産サイトなどで物件情報を掲載し、内見希望者を募ります。

この時のちにトラブルにならないよう、物件情報は詳細に伝えます。
どの部分が違反にあたるのか、どのような制限が発生しているのかといった情報です。
あわせて前述したようなアピールポイントを誠実に伝えます。

その後購入希望者が問題点に納得して購入を申し出れば、売買契約を締結します。

契約前の重要事項説明の場では売主と買主、不動産会社の担当者が同席します。
重要事項説明書を参照しながら、売主自身もどこが違反しているのかを再確認します。

その後に契約を締結し、代金支払いと物件の引き渡しを行えば完了です。

まとめ

ここまで、違法建築の不動産を受け継いでしまった場合のデメリット、対処法などについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
違法建築かどうかは、確認済証や検査済証が存在するかどうか、増築部分の登記が行われているかどうかなどを確認すれば調べられます。
万が一ということがあるため、不動産を受け継いだ相続人は、なるべく早めに調べておきましょう。

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