土地建物における“時効取得”について解説します

被相続人の不動産に何も問題がなければ、相続人の方はその物件を相続できます。
ただ、本来なら引き継げるはずの物件にも関わらず、相続時に第三者が利用していた場合、“時効取得”が認められ、引き継げない可能性もあります。
ここからは、時効取得の概要や成立要件などについて解説したいと思います。
時効取得の概要
“時効取得”という言葉をご存知の方は、あまり多くないと思います。
これは、簡単にいうと、ある土地・建物を長期間所有している場合、本来の所有権を持っていない方でも、その物件の所有権を主張できるという制度をいいます。
例えば、被相続人の残した土地・建物が、長年放置されていたものだとします。
通常、この物件を引き継ぐのは相続人ですが、相続の際、実は放置していた土地・建物を、被相続人の兄弟が使用している(住んでいる)ことが判明したとしましょう。
このとき、本来の所有者ではない被相続人の兄弟に時効取得が認められれば、所有権は兄弟に移るため、被相続人の相続人は土地・建物を引き継げなくなります。
知らない方にとっては嘘のような制度ですが、実際このようなことは起こり得るため、相続人となる方は注意が必要です。
時効取得の成立要件について

第三者に時効取得が認められると、相続人は被相続人の残した物件を引き継げないという話をしました。
ただ、長期間使用しているだけで、誰もが時効取得の対象になるわけではありません。
時効取得の成立要件には、以下のことが挙げられます。
・所有の意思があること
・時効期間を満たしていること
・強制的あるいは隠れた占有ではないこと
・継続して占有していること
それぞれ詳しく解説しましょう。
所有の意思があること
不動産の時効取得は、本来の所有者ではない第三者に所有の意思がないと成立しません。
所有の意思とは、“この土地の所有者は自分だ”という考え方であり、この考えを持っているかどうかについては、占有開始の原因や経緯をもとに、客観的に判断されます。
また、このとき第三者が所有の意思を持つ物件は、当然他人の所有物に限ります。
ちなみに、“自らが所有する”という直接的な占有だけでなく、“自らが所有する土地を他人に貸し出す”という間接的な占有についても、所有の意思があると認められます。
時効期間を満たしていること
不動産の時効取得は、時効期間(所有期間)を満たしている第三者のみ対象になります。
具体的には、以下の期間を満たさなければいけません。
|
最初から自分の所有する不動産と思っていた場合 |
他人の所有物であることを知っていた場合 |
時効期間 |
10年 |
20年 |
起算点 |
所有の意思をもって、目的物の所持を始めたときから |
強制的あるいは隠れた占有ではないこと
本来の所有者ではない第三者の時効取得は、その物件の占有を強制的に行っていない場合にのみ成立します。
つまり、被相続人の兄弟が、被相続人を脅迫して不動産を占有したような場合、兄弟に時効取得は認められないということです。
また、占有していることを表明せず、相続人等に隠していた場合も、時効取得は成立しません。
継続して占有していること
第三者の時効取得は、占有期間が一定期間継続している場合に成立します。
逆にいうと、占有が途中で途切れているような場合は、認められないということになります。
ちなみに、占有が途切れる理由には、主に以下のことが挙げられます。
・請求
・差押、仮差押、仮処分
・承認
・その他占有を失った場合
占有が途中で途切れた場合、それまでの期間はリセットされ、中断事由終了のときを起算点とし、再び時効が進行します。
相続不動産の第三者による利用に気付いたらどうすれば良い?
被相続人が遺した不動産を、第三者が利用していることに気づいたときは、まず前述した時効取得の成立要件を確認しましょう。
もし、調べた結果、第三者に時効取得の資格がない場合は、当然不動産の明け渡しを求めるという流れになります。
また、それでも第三者が応じない場合は、弁理士に依頼し、代理交渉をしてもらうことになります。
第三者が時効取得を主張しているかどうかが重要

第三者が前述の要件を満たしている場合、時効所得が成立するのは事実です。
ただ、実際にそれを取得するためには、第三者は時効完成後、本来所有権のない不動産に関して、「自分のものだ」と主張しなければいけません。
つまり、被相続人の土地を利用する第三者からすれば、自動的に時効取得が認められるわけではないということです。
どうしても被相続人の不動産を相続したい相続人の方は、この主張がきちんと行われているかどうかもチェックしましょう。
まとめ
ここまで、相続時にトラブルに繋がる可能性がある“時効取得”について解説してきましたが、いかがでしたか?
少しルールが難しいですが、これは被相続人が直前まで居住していた物件を相続する場合などには、あまり関係のない制度だと言えます。
逆に、何十年も被相続人が手を付けていなかった物件を相続する場合などには、第三者とトラブルになる可能性があるため、注意しましょう。