相続放棄した方がいいケースとは?

相続人となる方は、必ずしも被相続人の財産を受け継がなければならないわけではありません。
なぜなら、相続人には“相続放棄”という選択肢があるからです。
今回は、相続放棄の概要と、相続放棄をした方がいいケースを中心に解説していきますので、今後決断を迫られる可能性がある方は、ぜひ参考にしてください。
相続放棄の概要
相続人には、被相続人の財産を受け継ぐ権利がありますが、それをすべて放棄するのが“相続放棄”です。
具体的には、預貯金や不動産、有価証券や自動車といった財産について、一切受け取らないことを指しています。
また、相続放棄をすれば、上記のようなプラスの財産だけでなく、マイナスの財産に関しても、相続人が受け継ぐことはなくなります。
具体的には、以下のような財産です。
カテゴリ |
詳細 |
負債 |
借入金、買掛金、住宅ローン残債、小切手等 |
税金 |
所得税、住民税、その他の税金の未払い分 |
その他 |
賃料、地代、医療費等の未払い分 |
ちなみに、相続放棄は、被相続人が亡くなった時点の住所を管轄する家庭裁判所に対し、必要な手続きをすることで申請できます。
相続放棄をした方がいいケース
相続放棄の仕組みはなんとなく理解しただけたかと思いますが、どのような場面で行うのかについては、まだピンと来ていない方も多いでしょう。
相続放棄は、主に以下のケースで選択すべきです。

・財産が債務超過のケース
・争族に巻き込まれたくないケース
・特定の相続人にすべての財産を相続させたいケース
1つ1つ詳しく解説しましょう。
①財産が債務超過のケース
相続人は、被相続人の財産を受け継ぐ場合、プラスの財産だけでなく、負債等のマイナスの財産も相続しなければいけません。
また、このとき財産が“債務超過”になっている場合は、相続放棄を選択すべきだといえます。
債務超過とは、負債の総額が資産の総額を超えることいいます。
つまり、すべての資産を売却しても、負債を完済できない状況だというわけです。
この状態で、相談人の方が財産を受け継いでしまうと、残りの負債は自らで費用を捻出して返済しなければいけませんので、相続放棄するのが賢明です。
②争族に巻き込まれたくないケース
“争族”とは、被相続人の財産を巡って発生する、相続人同士の争いのことをいいます。
相続は、被相続人の財産を受け継ぐ重要な制度であるため、これがきっかけで、今まで仲が良かった家族が険悪になったり、特に関わりのなかった親族間で禍根が生まれたりすることがよくあります。
ただ、相続に参加しない、つまり相続放棄をして、財産を一切受け継がないという選択肢を取れば、争族に巻き込まれる心配はありません。
したがって、預貯金や不動産等の取得を見送ってでも、トラブルを避けたいという方は、相続放棄することをおすすめします。
③特定の相続人にすべての財産を相続させたいケース
被相続人から相続による事業承継が行われる場合は、後継者となる特定の相続人1人に対し、事業用財産や株式等が引き継がれます。
また、このとき、後継者となる相続人にすべての財産(負債を含む)も相続してもらいたいという場合、他の相続人の方は、全員相続放棄を選択することで実現できます。
もちろん、このケースでも、相続放棄した方がプラスの財産を受け取ることはありませんが、負債の支払い義務はすべて特定の相続人1人に移ります。
相続放棄をしない方がいいケースはあるのか?
逆に、相続放棄をしない方が得をするというケースには、以下のようなケースが挙げられます。

・負債が残っていないケース
・資産と負債のバランスがわかりにくいケース
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①負債が残っていないケース
被相続人の財産に負債が残っておらず、プラスの財産だけを相続できるという場合は、当然相続放棄をしない方が得をします。
また、もし住宅ローン残債が残っていたとしても、被相続人が“団体信用生命保険(団信)”に加入していれば、保険会社によって残債が支払われるため、相続人が負担する必要はありません。
②資産と負債のバランスがわかりにくいケース
相続では、被相続人がプラスとマイナスの財産、両方を持っていて、なおかつそのバランスがわかりにくいというケースがあります。
この場合、安易に相続放棄をしてしまうと、後になってプラスの方が多いことがわかり、結局相続人は損をしてしまう可能性があります。
したがって、このケースでは相続放棄ではなく、“限定承認”をすることをおすすめします。
これは、被相続人の財産から負債を返済した後、プラスが出た分だけ相続するという便利な制度です。
例えば、1,000万円のプラス財産で800万円のマイナス財産を返済した後に、残った200万円だけを相続するというような方法です。
まとめ
明らかに被相続人が負債を多く抱えていたり、なるべく親族とのトラブルを起こしたくなかったりする場合は、相続放棄を検討しましょう。
ただ、相続放棄の申請は、1度行うと基本的に撤回できないため、本当に相続放棄をすべきなのか、熟考した上で決断してください。
できれば、限定承認等、他の選択肢と比較してから決断することをおすすめします。