底地(貸宅地)の“建物買取請求権”について学ぼう!
底地(貸宅地)には、“建物買取請求権”という制度が存在します。
これは、土地を貸し出す地主様にとっても、借りる借地人様にとっても非常に重要な制度であり、前もって知識を持っていなければ、トラブルの原因にもなりかねません。
今回は、この制度について詳しく学んでいただきたいと思います。
建物買取請求権の概要
底地(貸宅地)における借地権の存続期間が満了した際に、契約を更新しない場合、借地人様から建物の買い取りを請求できる権利・制度を“建物買取請求権”といいます。
一方的な意思表示で効果が生じる“形成権”の一種で、当制度では、借地人様から買取請求があった時点で、地主様の意思に関わらず、売買契約が成立したという扱いになります。
つまり、地主様は権利を行使されたら、必ず建物を買い取らなければいけないということですね。
また、建物買取請求権は、借地人様が底地(貸宅地)の契約を更新したいにも関わらず、地主様が“正当事由”を用いてそれを拒んだときによく行使されます。
借地契約が終了すると、土地賃貸借契約書に基づき、借地人様には原状回復義務が発生するため、底地(貸宅地)上の建物を取り壊し、更地に戻して地主様に土地を返還しなければいけません。
ただ、そうすると借地人様の建物建築費用は無駄になり、投下した資本が回収できなくなってしまいます。
もちろん、建物という経済的価値の大きなものを消失させることは、社会的損失にも繋がります。
底地(貸宅地)の建物買取請求権は、借地人様の保護、そして上記の経済的・社会的損失の回避という役割を持つ、重要な制度なのです。
買い取り金額はどれくらい?
底地(貸宅地)において、建物買取請求権が行使された場合、基本的に地主様は建物を買い取らなければいけませんが、このときの買い取り金額は、一体いくらくらいになるのでしょうか?
一般的には、建物価格と“場所的利益”を足したものが、買い取り金額になるとされています。
場所的利益とは、建物の存在自体から生じる事実上の利益を指し、わかりやすくいうと“その建物があることによって期待できる利益”のことをいいます。
ただ、場所的利益の内容は至って曖昧であるため、多くの事例では、更地価格の10~30%に相当することとして、最終的に建物価格と合算されます。
建物価格はどのように算定するのか?
底地(貸宅地)の建物買取請求権行使時の買い取り価格は、建物価格と場所的利益を足したものだと解説しました。
では、この場合の建物価格(建物評価額)は、どのように算定されるのでしょうか?
採用されることが多い算出方法としては、不動産鑑定評価基準における“再調達価格”と同様の方法が挙げられます。
再調達価格とは、建築物において、その建物の再現における評価基準をいいます。
例えば、建築物が家事で全焼してしまった場合、焼失したものと同一の質、用途、規模、型、能力になるものを再現したとき、その再現に必要になる価格を指します。
また、この金額は現地の状況に関係なく基準が決まっていて、鉄筋コンクリートが20万円/㎡、重量鉄骨が18万円/㎡、木造と軽量鉄骨が15m/㎡となっています。
つまり、底地(貸宅地)の建物買取請求権行使時の買い取り価格は、上記の数字をもとに弾き出されるというわけですね。
再調達価格の内容に関しては、耐用年数のうち経年分の減価相当額が控除されます。
建物買取請求権を行使するための条件は?
冒頭で少し触れましたが、底地(貸宅地)の建物買取請求権を借地人様が行使するには、以下の①、②のいずれかに該当する必要があります。
①借地契約の期間満了
借地契約期間が終了している
契約が更新されない
建物が残っている
②譲渡あるいは転貸の拒否
借地権の譲渡あるいは転貸を地主様が許可してくれない
借地上に建物が残っている
①のすべて、②のすべてに該当する借地人様は、地主様に建物を買い取ってもらうことができます。
地主様は、これを拒否することができません。
建物買取請求権は特約で無効にできるのか?
底地(貸宅地)における借地契約では、地主様が特約を盛り込むことができます。
また、これにより、本来借地人様に認められるはずの権利が認められなかったり、契約違反があった場合の流れ等が通常とは異なったりすることがあります。
では、地主様は特約を盛り込むことで、底地(貸宅地)における建物買取請求権の行使を無効にすることはできるでしょうか?
結論からいうと、特約で建物買取請求権を無効にすることはできません。
具体的には、借地契約の特約によって、建物買取請求権の行使を制限、排除する行為は、法律によって禁止されています。
これは“強行規定”というもので、いかなる理由があっても、地主様が借地契約の更新や建物の譲渡・転貸を認めない場合は、必ず買い取りに応じなければいけません。
対象の建物が賃貸中の場合は?
底地(貸宅地)の建物買取請求権の対象建物が賃貸中というケースは、意外と多いです。
対象となる建物が賃貸中の場合、所有権移転以外の法的扱いがかなり複雑になります。
まず、賃貸中の建物における建物買取請求権は、賃借人が対抗要件を得ている場合にのみ行使されます。
そして、借地人様の建物買取請求権行使により、地主様が賃貸中の建物を買い取った場合は、地主様が借地人様に代わって賃貸人となります。
つまり、賃借人からすれば、オーナーが変わることになるというわけですね。
また、買い取り代金の支払いが履行される前までの賃料については、旧賃貸人(借地人様)に帰属しますが、支払い後の賃料は新しい賃貸人(地主様)が得ることになります。
建物買取請求権行使のタイミングについて
底地(貸宅地)の建物買取請求権は、借地契約が終了するとき、条件を満たしている借地人様によって行使されます。
ただ、このように説明すると、地主様と借地人様とでトラブルが発生する前に行使し、穏便な協議を行うための制度に見えますが、実際は異なります。
実は、建物買取請求権が行使されるのは、ほとんどが借地人様の敗訴の前後なのです。
つまり、ある程度トラブルが大きくなったタイミングで行使されることが多いというわけですね。
また、底地(貸宅地)の明け渡し請求の認容判決確定後に行使されるというケースもあります。
そうすると、すでに言い渡された判決との食い違いが問題となります。
具体的な例でいうと、地主様が借地人様に対し、建物収去土地明け渡し請求訴訟を起こし、勝訴判決が確定した後、借地人様が建物買取請求権を行使し、建物が地主様の所有物となったにも関わらず、借地人様がその建物に居住したままになっているようなケースですね。
そして、このような事例に対し、過去裁判所では、建物収去土地明け渡し請求の勝訴判決によって、地主様は建物退去請求の強制執行ができるという判断が下されています。
通常、判決内容と執行内容は同一であることが要求されますが、建物買取請求権では、このような例外が認められています。
少しややこしいですが、これは地主様も借地人様も、必ず覚えておくべきルールだと言えるでしょう。
まとめ
ここまで、底地(貸宅地)の建物買取請求権について学んでいただきましたが、いかがだったでしょうか?
当制度に関する知識は、一朝一夕で身に付くものではありません。
もちろん、人生で1度も当制度に触れない地主様、借地人様もいるかもしれませんが、行使されたときもしくは行使すべきときが来た場合に備えて、細かいルールはなるべく頭に入れておくべきでしょう。