借地の契約に関する法律は、どのように変化したのか?
土地の賃貸借契約は、そのための法律に基づいて結ばれています。
しかし、この契約を守る法律は時折改正を挟み、1992年には新たな法律が施行されていることでそれ以前の契約とは大きく内容が変化することとなりました。
借地の契約に関する法律というのは、どのように変化していったのでしょうか?
元々の法律
土地を借りる際の契約についての元々の法律は、借地法というものでした。
これは1921年に制定されたものですが、その背景にはどのような事情があったのでしょうか?
法律が制定された事情について、解説します。
借地という制度そのものは、この法律が制定されるずっと前からありました。
大地主が、自分の使っていない土地を他の人に貸して住まわせていましたが、その契約ではあくまでも土地の権利は地主のものとなっていました。
例えば、地主がその土地を使いたいから明け渡して、と言い出した場合、その土地を借りている借地人様は速やかに土地を明け渡さなくてはいけなかったのです。
そのような状況では、安心して住み続けることはできないでしょう。
そこで制定されたのが、借地法です。
借地法では、土地の賃貸借契約を明確に定めているので、土地を借りている人がいきなり契約を打ち切られるようなことが無くなり、安心して借地に住めるようになりました。
大正になると、都市部に進出してくる人も増えてきます。
しかし、当時はまだ土地の価格は安いもので、わざわざ自分の土地を所有したいと考える人は少なくニーズもなかったので、借地や借家を利用するのが一般的でした。
借地の利用方法についても様々で、借地を借りてそこに自分の家を建てて住む人もいれば、借地に家を建ててそれを他の人に貸し出すという、地主様とは別に大家様がいる借家というのもありました。
借地法が最初に改正されたのは、制定から20年が経過した1941年のことでした。
このときに増えた制度が、法定更新制度というものです。
この制度がどのようなものか、詳しく解説します。
法定更新制度というのは、借地の契約において、その更新を法律が認める、というものです。
この制度ができたことで、借地は基本的にその賃貸借契約が更新されるもの、ということになったのです。
もちろん、借地人様が望んだ場合は、契約を更新しないという選択肢も選ぶことができます。
ただし、借地人様が契約更新を望んで、地主様がそれを拒絶した場合でも、基本的には契約が更新されてしまうこととなったのです。
このように改正されたことで、借地では借地人様の権利が非常に強いものとなりました。
といっても、地主様は絶対に契約更新を拒絶できない、という訳ではありません。
地主様に正当な事由がある場合は、契約更新を拒絶することもできるのです。
しかし、この正当な事由というのが問題でした。
法律では、どのような場合が正当な事由に当たるのか、ということが示されていないので、判断が非常に難しいものとなったのです。
例えば、地主様が賃貸借契約を辞めたい、というのは当然の権利に思えるのですが、これは正当な事由とはなりません。
地主様が住む場所を失ったというのなら正当な事由にはなるのですが、そのようなことは滅多にないでしょう。
なぜこのような、借地人様を守る法律ができたのかというと、その背景には戦争があります。
戦争では、多くの成人男性が徴兵され、戦地へと赴いていったのですが、その間に借地を追い出されてしまうようであれば、安心して出兵できません。
当時は借地に家を建てる人や、借家を借りている人が多かったので、残された家族を守り後顧の憂いをなくすることを考えた結果、借地人が借地に住む権利と共に大家の借地権も保護するために、このような制度が定められたのです。
新しくなった法律
戦争が終わると、日本は高度経済成長期を迎えることになります。
それに伴って、地方から都市部へと進出してくる人も増えたことで、手ごろな家賃であまり広くはない借家などの需要が増え、供給されるようになりました。
その頃は物価上昇率もかなり高かったのですが、土地の価格はそれ以上の勢いで高騰していきました。
土地を持つことで資産になるという、土地神話といわれる考え方が生まれたのもこの頃です。
それまでは、土地を所有しているだけでは資産という考え方をしていなかったので、余った土地があれば借地にすることも多かったのですが、この土地神話という考え方が生まれたことで考え方は変わってきます。
借地は一度貸してしまえば、土地を借地人様に取られてしまうと考えられ、売却なども難しくなることから、借地として貸し出すことが減っていったのです。
土地は借りるよりも買うことが当たり前となっていったのですが、1980年代後半に起こったバブル景気で土地の価格はさらに上がり、首都圏でマイホームを持つというのは非常に困難となります。
マイホームのために、片道2時間かけて通勤する人も少なくはありませんでした。
こうした事情をみて、政府でもそれまでの借地法や借家法について見なおす必要が出てきました。
そうして1991年に新しく制定されたのが、新法といわれる借地借家法です。
それに伴って、これまでの借地法は旧法と呼ばれるようになります。
新法では、これまでの借地権に加えて定期借地権というものが制定されたため、地主様は借地人様に安心して土地を貸し出すことができるようになったのです。
また、それまでにあった建物保護法などの旧法は廃止となりました。
大きな変更点としては、借地権の永続性を見直す以外にも、正当な事由という点の見直しがありました。
借地契約の更新を拒否するための、地主様の正当な事由という点において、具体的な内容が示されたのです。
このことで、地主様はその正当な事由に則って契約の更新を希望されても、それを拒否できるようになったのです。
これで、地主様と借地人様の権利については、大きく見直されることになりました。
ただし、新法が施行されてからも問題はありました。
それは、旧法に基づいて結ばれた借地の賃貸借契約の存在です。
旧法での借地の契約は、新たに結び直さない限りは半永久的に有効となるものです。
そのため、新法での契約に切り替える必要がなく、旧法での契約はそのまま残ってしまったのです。
旧法での借地契約は期間が20年と長期である上に、地主様と借地人様の双方が同意しない限りは解消されずに自動で更新されてしまいます。
そのため、新法が制定されてからおよそ30年が経過しようとしていますが、今もその契約は残り続けているのです。
もちろん多くの地主様は、借地契約を更新する際には新法での契約に切り替えたいと考えています。
しかし、借地人様にとっては特に切り替えるメリットが無いのでそのことに同意してもらえないのです。
現在の課題としては、この新法と旧法による権利の違いをどう是正していくべきか、という点です。
その点も、いずれ見直されるかもしれません。
まとめ
借地の契約に関しての法律は、これまでに幾度も見直しがあり、そして新たな法律も施行されました。
しかし、それは過去の契約が新しい法律に基づくものへと切り替わったという訳ではなく、古くからある契約はそのままの内容で更新されていく事になっているので、現在の借地の賃貸借契約というのは新法と旧法が入り混じった、複雑なものとなっています。
現在、借地を借りている借地人様や、土地を貸している地主様は、自分が結んでいる契約が新法に基づいたものか、それとも旧法に基づいたものかを一度確認してみることをお勧めします。