不動産売買における“停止条件付契約”とはどのようなものか?
不動産売買は、特殊な契約方法によって行われることもあります。
今回解説する“停止条件付契約”もそのうちの1つであり、決して一般的な契約方法ではないものの、場合によってはこちらの方法を選択せざるを得ないことも考えられます。
詳しく解説しますので、興味がある方はぜひご覧ください。
停止条件付契約の概要
将来に一定の事実が発生したときに、初めて法律的な効力が生じる旨を特約した売買契約を停止条件付契約といいます。
具体的には、以下のような契約を指しています。
・一定期間内に、その土地に建物を建築することを条件とする土地売買契約
・住宅ローンの融資について、金融機関の審査に通ることを条件とする宅地売買契約
・地主の承諾を条件とする借地権の売買契約 など
ちなみに、条件とされる事実が発生しなかった場合、こちらの売買契約は成立しません。
停止条件付契約が締結されることが多いケース
停止条件付契約は、主に不動産の買い換えを行う際に締結されます。
例えば、現在所有する不動産を3,000万円で売却したい売主がいるとしましょう。
こちらの方は、不動産売却後に中古の新居を購入しようと考えていますが、古い住居の売却金額が3,000万円を下回ってしまうと、住宅ローン残債を完済できません。
つまり、3,000万円で売却できなければ、買い換えを実行できないというわけです。
このようなケースでよく締結されるのが、停止条件付契約です。
不動産の買主は、新居の売主と合意の元、「今所有している不動産(古い住居)が3,000万円で売れた場合、不動産(新居)を購入する」という契約を結びます。
農地転用の売買でもよく締結される
停止条件付契約は、農地転用を条件とした売買でも締結されるケースが多いです。
農地は勝手に売却することができず、第三者に農地以外に転用して売却する場合、売主は農地法5条の許可が必要になります。
また、農地転用は行政許可であることから、本当に許可が下りるのか、いつ許可が下りるのかといった点が明確ではありません。
一方で、農地転用の許可が下りれば、売主、買主ともに売買をしたいという意思はハッキリしているため、停止条件付契約を利用するのが、お互い都合が良いということになります。
具体的には、農地転用の許可が取れた段階で、初めて不動産売買契約が締結するような内容で契約を交わします。
ちなみに、農地の売買については、農地法5条の許可が下りていない段階で契約を結んでも、その内容は無効になります。
借地で停止条件付契約が活用されるケースについて
貸主(地主)と借主(借地人)が存在する借地では、貸主が土地を貸し出し、借主がその土地に建物を建てて利用する権利(借地権)を有しています。
また、借主は自身の所有物である借地権について、第三者に売却することができますが、このときには貸主の許可を得なければいけません。
しかし、こちらの許可については、必ずしも下りるとは限りません。
このようなとき、借地の借主は借地権の買主を探し、停止条件付契約を結ぶことがあります。
こちらの内容は、借地の貸主の承諾が下りたとき、不動産売買契約が締結されるというものです。
こうすることで、借地の借主は、貸主の承諾を得るまでの時間を無駄にすることなく、効率的に借地権を売却できる可能性が高いです。
建築条件付土地とは?
停止条件付契約は、不動産の買い換え時や農地の転用、売買時、借地権の売買時など以外にも、建築条件付土地として成立することがあります。
建築条件付土地の売買契約では、その土地の上に建てる住宅の建築請負契約が締結されることが停止条件であり、その事実が発生したときに、土地の売買契約の効力が発生します。
こちらは、ハウスメーカーや建築会社が自社との建築請負契約を前提に販売している土地によく見られ、売り建て住宅とも呼ばれています。
また、建築条件付土地の場合、買主はその土地を購入した時点で、どの会社に依頼して家を建てるのか、いつまでに契約を結ぶのかを指定されることになります。
契約までの期間は、一般的に3ヶ月程度になっていることがほとんどで、買主は3ヶ月以内に家のプランや間取り、設備、内装などをほぼ決定し、建築請負契約を結ぶ必要があります。
ちなみに、万が一期間内に条件が整わず、建築請負契約ができなかった場合には、土地の売買契約自体も白紙になります。
買主からすれば、建築条件付土地は条件が多い分、条件のないまっさらな土地と比べ、リーズナブルな価格で購入できるというメリットがあります。
しかし、仕事や子育てなどで忙しい方が、3ヶ月で間取りや設備などの細かい仕様を決めるというのは、かなりのハードスケジュールになることが予想されます。
停止条件付契約を受け入れてもらいやすい売主とは?
先ほど、停止条件付契約は、主に不動産の買い換えを行う際に締結されるという話をしました。
こちらは、買い換え特約とも呼ばれるものですが、売主にとってはあまり有利な契約ではありません。
そのため、場合によっては売主に受け入れてもらえない可能性もあります。
しかし、中にはこのような停止条件付契約について、受け入れてもらいやすい売主もいます。
まず、なかなか売却できない物件の売主、つまり売れ残っている物件の売主は、少しでも早く売却したいと考えるため、多少自身にとって不利な契約内容であったとしても、特約を受け入れてもらえることが考えられます。
ただし、このような長期間売れ残っている物件は、物件そのものや周辺環境などに問題を抱えている可能性があるため、物件の詳細は慎重にチェックしましょう。
その他、売主が個人ではなく、不動産会社である場合も、停止条件付契約を受け入れてもらいやすいです。
個人であれば、さまざまな理由もあって売却を急ぐケースが多いですが、法人はある程度売れる見込みさえあれば、買主を押さえておきたいという心理が働きます。
停止条件付契約を結ばないとどうなるのか?
前述のようなケースで、もし停止条件付契約を結ばなかったら、不動産の買い換えを行う方は、大きな経済的損失を負う可能性があります。
先ほどのケースでは、古い住居の売却金額が3,000万円を下回った場合、その物件を売却することはおろか、新居購入のための住宅ローンを利用することもできません。
つまり、新居を購入するための売買契約を、通常の形式で結んでいる場合、その契約は取り消さなければいけないということです。
しかし、不動産売買契約のキャンセルは、そう簡単にできるものではありません。
買い換えに失敗した方は、すでに契約を結んでいる新居の売り手に対し、高額な違約金を支払う必要があります。
一方、停止条件付契約を結んでいれば、もし新居を購入できない状況に陥ったとしても、違約金を負担することなく、新居の売主との契約をなかったことにできます。
よって、確実に売買契約を成立させられるかわからない場合、買主は必ず停止条件付契約を結ぶべきです。
停止条件付契約を結ぶ際の注意点
停止条件付契約を結ぶ売主または買主は、以下の注意点について把握しておきましょう。
・合意について
・条件の内容について
・売買の成否について
合意について
停止条件付契約は、原則当事者間で自由に取り決めることが可能です。
ただし、その条件が不法行為に該当するものであったり、社会通念上で不可能な事実を条件とするものであったりする場合は無効になります。
もちろん、当事者のどちらか一方だけで決定されたもの、つまり合意がないものに関しても当然無効になるため、覚えておきましょう。
条件の内容について
停止条件付契約における条件の内容によっては、それが停止条件に該当するのか、“解除条件”に該当するのかについて、容易に判断できない場合があります。
解除条件とは、将来不確定な事実が発生することによって、契約の効果が消滅する場合の“将来不確定な事実”のことを指しています。
例えば、不動産売買契約において、“物件が完成するまでの間に転勤になったら、契約を失効させる”という条項を入れた場合、“転勤になること”が解除条件に当てはまります。
もし、買主または売主が、条件について停止条件なのか、解除条件なのかがわからない場のであれば、取引を仲介する不動産会社に明確にしてもらいましょう。
双方が納得し、共通の認識を持った上で契約するのが大切です。
停止条件付契約と解除条件付契約の違い
停止条件付契約は、その条件が成就したときに契約の法的効力が発生する契約です。
法的効力を“発生”させるにもかかわらず、“停止”という言葉が使用されているのは、その条件が成就するまでの間、法的効力の発生が“停止”しているからです。
法律関連の用語では、このような少し複雑な言葉の使い方がよく見られるため、注意しなければいけません。
また、先ほどの項目で少し触れましたが、解除条件付契約は、その条件が成就したときに、契約の法的効力が消滅する契約です。
こちらの契約には、解除条件型と解除留保型という2つのパターンがあります。
解除条件型は、解除条件の発生で自動的に契約が解除となるもので、解除留保型は、解除条件の発生で契約を解除するか、続行するかを選択できるというものです。
売買の成否について
停止条件付契約は、不動産の買い換えを行う方、つまり新居の買主にとっては、非常に有利な契約となります。
しかし、新居の売主にとっては、売買の成否が買主に都合に左右されるため、とても不利な契約と言えます。
よって、実際停止条件付契約における売主となる方は、このことについて留意しておかなければいけません。
もちろん、通常の不動産売買契約であれば、急に買主都合で契約がキャンセルになったとき、違約金を受け取ることができますが、停止条件付契約ではそのような恩恵を受けることもありません。
まとめ
ここまで、停止条件契約という特殊な契約方法の仕組みについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
買主、売主問わず、今後こちらの方法で売買契約を交わす機会が訪れる可能性は十分にあります。
特に、売主は比較的不利な条件で売買契約を結ぶ形になるため、この方法を選択する際には、しっかり先のことを見据えて判断しなければいけません。