不動産の持分におけるさまざまな変更手続きについて
不動産を共有している方は、持分における変更手続きを行うケースがあります。
また、持分における変更手続きには、持分そのものの変更手続き、持分の名義変更手続きの2つに分かれます。
今回は、持分の概要などと併せて、上記2つの変更手続きの方法を解説していきますので、興味がある方はぜひ参考にしてください。
そもそも持分って何?
不動産の持分における変更手続きについて解説する前に、まずは“持分”がどんなものなのかについて解説します。
持分とは、複数の人が1つの不動産を共同で所有(共有)している場合に、それぞれの所有者がその不動産について持っている所有権の割合をいいます。
例えば、夫婦が1つの物件をそれぞれ1/2ずつ共有している場合、夫が1/2、妻が1/2の持分を持っていることになります。
また、不動産の持分については、登記所に赴いて登記をすることで、それぞれの所有者が自身の持分を主張できます。
不動産の持分割合の計算式
不動産の持分割合は、土地や建物それぞれの購入価額のうち、その方が負担した金額の割合で算出します。
具体的には以下のような計算式です。
・不動産持分=(自己資金+借入金)/不動産の購入価額
ここでいう自己資金とは、不動産を共有する各人が支払った金額のことです。
また、借入金とは、各人の名義で借りたローンのことを指します。
連帯債務者として一緒に不動産を購入する方がいる場合は、ローンの負担割合を決定することによって、その方も持分を登記できます。
負担割合については、収入比を基準に決定するのが一般的です。
ちなみに、連帯債務者とは、主たる債務者(ローンの契約者)と同様に、ローンの全額を返済する義務を負う人物を指しています。
連帯保証人のように、主たる債務者の返済が困難になったとき、初めて返済義務が生じるわけではなく、初めから主たる債務者と同じ返済義務を持っています。
持分割合を決めるときの注意点
先ほども少し触れましたが、不動産の持分割合を登記するときは、原則として支払った資金の割合で決定しなければいけません。
例えば、5,000万円の住宅を購入した場合、実際は夫が自己資金と住宅ローンを利用して購入したにもかかわらず、妻の持分割合が1/5などと登記すると、夫から妻へ5,000万円の1/5=1,000万円の贈与があったとみなされます。
詳しくは後述しますが、この場合には所有権更正登記が必要になります。
また、夫が主たる債務者、妻が連帯債務者となる住宅ローンの組み方をしていて、土地の名義を夫、住宅の名義を妻というように、資産ごとに持分を分けて登記した場合、住宅の名義を持たない夫は、住宅ローン控除の適用外になります。
住宅ローン控除は、名前の通り居住する住宅のための控除制度であるため、土地のみの名義人は利用することができません。
控除を受けられるのは、あくまで建物を夫婦2人の共有とする場合です。
相続による財産分与によって生じる共有について
不動産の共有は、最初から夫婦などで物件を共同購入する場合だけでなく、相続による財産分与によって生じることもあります。
例えば、遺産分割協議で話がまとまらないときや、相続人同士の争いを避けたいときに、とりあえず法定相続分に従って分けたような場合です。
また、相続による財産で共有持分を取得する場合、持分割合は法定相続分に応じて決定します。
具体的には、配偶者と子どもがいる場合、配偶者は1/2、子どもは残りの1/2の持分を人数で分ける形になります。
子どもがおらず、父母がいる場合は、配偶者が2/3、父母が残りの1/3の持分を人数で分け、子どもと父母がともにおらず、兄弟がいる場合は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が残りの1/4の持分を人数で分けます。
ちなみに、相続人になる子または兄弟姉妹が相続開始時に死亡していた場合、孫や甥、姪が代わりに相続することができる代襲相続もあります。
不動産の共有にメリットはあるの?
不動産を共有し、それぞれの所有者が持分を持つことには、主に以下のようなメリットがあります。
① 住宅ローン控除で有利になる
住宅の購入価格のうち、一定の割合を所得税から控除できる“住宅ローン控除”は、共有不動産では二重に受けることができます。
例えば夫婦であれば、夫のローン残高、妻のローン残高にそれぞれ利用できるということですね。
ただ、夫婦の場合は夫の収入が途絶えたり、妻が出産を機に仕事を辞めたりしたとき、住宅ローン控除が受けられないことも考えられます。
したがって、共有していれば必ず得をするというわけではありません。
② 3,000万円控除で有利になる
不動産売却時の控除と言えば、3,000万円控除が挙げられますが、共有不動産であれば、控除される金額が倍の6,000万円になります。
これは非常に大きいですね。
つまり、不動産を売って利益が出たとしても、6,000万円を超えない部分に関しては、税金を納めなくても良いということです。
購入できる不動産の金額が高くなるのもメリット
不動産を購入する際、現金一括払いを選択する方はほとんどいないでしょう。
多くの場合は、住宅ローンで融資を受けて購入することになります。
また、住宅ローンを借りる際には、資産や年収に応じた審査が行われます。
このとき、当然資産が多く、年収が高ければ高いほど、その分多くのローンを借り入れることができます。
共働きの夫婦であれば、一人よりも必然的に資産や年収の金額が高くなるため、共有名義にすることにより、購入できる不動産の金額が高くなります。
そのため、夫婦いずれか一人が住宅ローンを利用する場合では買えなかった物件でも、問題なく購入できる可能性があります。
相続税が節税できる可能性もある
不動産を共有名義にした場合、単独名義の場合よりも、相続税を抑えられる可能性があります。
例えば、夫婦のマイホームが共有名義ではなく夫の単独名義だった場合、不動産の名義人である夫が死亡すると、不動産の評価額がそのまま課税の対象となります。
そのため、相続人の負担は大きくなることが考えられます。
一方、夫婦での共有名義にしておけば、夫の持分のみが相続税の課税対象となるため、必然的に相続税額は減少します。
相続税は、当然不動産だけでなく、預貯金など他の相続財産にも課税されるため、今後被相続人となる方が節税対策をしておくのは大切なことだと言えます。
共有のデメリットは?
一方で、不動産を共有して持分を持つことには、以下のようなデメリットもあります。
① 売却時の自由度が低い
不動産を共有している場合、売却時の自由度は低くなります。
なぜなら、共有者が複数いるということは、1人の所有者の一存で売却することができないからです。
もちろん、他の共有者に拒否されてしまうと売却できないため、これは非常に不便なところですね。
② 離婚時は手放さなければいけない可能性がある
不動産を共有する夫婦が離婚する場合、どちらか一方がその不動産から離れることになります。
したがって、通常はどちらか1人の名義に変更されますが、残った1人はもう1人の住宅ローンを補填しなければいけません。
ただ、この補填が難しく、泣く泣く共有不動産を売却するというケースは多いです。
③ 贈与税の対象になる場合がある
共有者不動産において、妻より先に夫が仕事を辞めたとします。
ただ、このとき夫の住宅ローン残高が残っていれば、まだ退職していない妻が夫の残高を負担しなければいけません。
また、上記の場合名義人は妻のみとなるため、夫から妻に“不動産が贈与された”という扱いになり、贈与税が課税されます。
もちろん、夫より先に妻が仕事を辞めた場合は、夫が妻の残高を負担し、夫が贈与税を支払うことになります。
諸経費が倍かかるのもデメリット
不動産を夫婦の共有名義にする場合、ローンの組み方としては、ペアローンと連帯債務型の2種類があります。
ペアローンは、同一の物件に対し、夫婦がそれぞれ住宅ローンを借り入れるというものです。
2本立てのローンで、それぞれが個別に債務を負うとともに、互いに連帯保証人になります。
この場合、配偶者は原則としてその住宅に同居することとされています。
また、連帯債務型は、夫婦のうち一人が住宅ローンの主たる債務者となって住宅ローンを借り入れますが、もう一人は連帯債務者として、同じくその住宅ローンを借り入れます。
これらのうち、ペアローンを選択する場合、ローンの契約が2つになるため、印紙税や事務手数料など、住宅ローンの契約にかかる諸費用が通常の2倍かかってしまいます。
持分そのものの変更手続きは?
では、いよいよ本題に入ります。
不動産の持分における2つの変更手続きの中から、まずは“持分そのものの変更手続き”について解説しましょう。
持分そのものを変更する手続きは、正式には“所有権更正登記”と言います。
所有権についての登記の一部が、当初から実態と食い違っていた場合に、その登記を実態に合致させるために行う登記で、登記の原因は“錯誤”となります。
例えば、夫婦がそれぞれの資金をあわせて住宅を購入したとき、登記に記載する持分は、原則出し合った資金の割合に応じて決まります。
そのため、夫が購入総額4,000円のうち3,000万円を出しているのであれば持分は3/4、妻が1,000万円を出しているのであれば持分は1/4となりますね。
ただ、夫婦の中には、実際出し合った資金に関係なく、持分を1/2ずつにして登記する方もいます。
このような形で登記してしまうと、確定申告などを行う際、税務署から贈与税課税について指摘される可能性があります。
先ほどの例で言うと、実際は夫が4,000万円のうち3,000万円、妻が1,000万円を出して物件を購入しているにも関わらず、持分を1/2ずつにして登記すると、妻が出していない1,500万円が“贈与された金額”とされてしまうかもしれないのです。
実際は贈与していないにも関わらず、贈与税が発生してしまうと、非常にもったいないですよね。
したがって、税務署からの指摘を受けた場合は、早急に登記の内容を変更し、実際それぞれが負担した資金に合った持分にしなければいけません。
これが持分そのものの変更手続き、つまり所有権更正登記ですね。
また、持分そのものを変更するための手続きは、必要な書類(持分が少なくなる方の印鑑証明書、登記済権利証、全部事項証明書)を準備し、司法書士に相談するところから始まります。
その後司法書士事務所に足を運び、作成してもらった書類に共有者全員で押印します。
ちなみに、このとき持分が少なくなる方は、必ず実印を使用しなければいけません。
押印が済んだら、各書類は法務局に提出され、申請から10日ほどで持分そのものの変更手続きは完了します。
持分の名義変更手続きは?
次に、“持分の名義変更手続き”について解説します。
これは、いわゆる“所有権移転登記”に該当するものです。
例えば、夫婦それぞれが資金を負担して購入した住宅において、夫が被相続人となる場合は、夫の持っている持分だけが相続されます。
つまり、夫の持分が1/2だった場合、その1/2の持分のみが相続されるということですね。
また、夫の持分だけが相続されるということは、相続時にその持分のみ名義変更されるということになります。
わかりやすくすると以下の通りですね。
相続前 | 相続後 |
夫名義の持分:1/2
妻名義の持分:1/2 |
相続人名義の持分:1/2
妻名義の持分:1/2 |
※夫婦それぞれの持分が1/2ずつの場合
持分の名義変更手続きは、単独名義で所有する不動産の名義を変えるときと同じで、法務局に申請します。
また、この際の申請人は、被相続人が作成した遺言書の内容、あるいは遺産分割協議書の内容によって決まります。
ただ、登記の目的に関しては、単独名義で所有する不動産の名義を変えるときとは異なるため、注意しなければいけません。
単独名義の不動産における名義変更(登記)の目的は、単なる“所有権移転”です。
1つしかない名義を別の1人に変更するわけですから、これは当然ですね。
しかし、持分の名義変更における目的は、単なる所有権の移転ではなく“持分の移転”となるため、“〇〇(共有者)持分全部移転”と記載する必要があります。
なぜなら、このように記載しないと、持分の名義のみが変更されたという旨が明確にできないからです。
また、相続人の欄には、相続人の名前と併せて、名義変更の対象となる持分の割合も記載しなければいけません。
まとめ
ここまで、持分の概要や共有不動産、そして持分における2つの変更手続きについて解説してきましたが、いかがでしたか?
持分における2つの変更手続きは、どちらもスピーディな対応が求められるものであるため、前もって手続き方法を知っておいて損はありません。
特に共有不動産を持つ方は、いざというときすぐに動き出せるよう、普段からシミュレーションしておくことをおすすめします。