不動産売却における“簡易課税”の利点や欠点、利用方法
事業者の方が行う不動産売却では、“簡易課税”と呼ばれる制度が利用できます。
これは、消費税の計算をするにあたって、とても便利な制度であり、今後不動産売却を控えている事業者の方にとって、使わない手はない制度です。
今回は、簡易課税の概要や事業区分、利点と欠点、具体的な利用方法について解説したいと思います。
“簡易課税”ってどんな制度?
簡易課税とは、事業者の課税の売上高から差し引かれる仕入れの税額を計算するために、“みなし仕入れ率”を適用させることができる制度を言います。
簡単に言うと、消費税の計算方法の1つですね。
みなし仕入れ率は、事業区分によって異なり、簡易課税制度を利用する際は、それぞれの事業区分に応じたみなし仕入れ率を適用できます。
ちなみに、この簡易課税という制度は、1989年、日本で初めて消費税が導入された際に、仕入れにかかる消費税額を計算するための事務負担が大きすぎるという声が相次いだことによって、導入された制度です。
簡易課税の事業区分、みなし仕入れ率について
事業区分 みなし仕入れ率 該当する業種
事業区分 | みなし仕入れ率 | 該当する業種 |
第一種事業 | 90% | 卸売業 |
第二種事業 | 80% | 小売業 |
第三種事業 | 70% | 農業、林業、漁業等 |
第四種事業 | 60% | 飲食業等、事業者が自己使用していた固定資産の売却 |
第五種事業 | 50% | 運輸通信業、金融業、保険業、サービス業等 |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
どの事業区分に当てはまるのかという判定に関しては、原則その事業者による課税資産の譲渡ごとに判定されます。
では、それぞれの事業区分について、もう少し詳しく解説しましょう。
① 第一種事業
第一種事業には卸売業が該当し、消費者から購入した商品を、そのままの状態で別の事業者に販売する事業に関しても、これに該当します。
また、業務用小売であっても、販売先が事業者であることが書類等で判明している場合は、卸売業に当てはまります。
② 第二種事業
第二種事業には、小売業が該当します。
食料品の小売店が、他から購入した食料品に軽い加工を施して販売する場合は、その小売店において、一般的に行われるとされるものであり、なおかつ加工後の食料品が加工前の食料品と同じ店舗で販売されるとき、第二種事業に当てはまります。
また、自動販売機による飲料の販売は、基本的に第二種事業に当てはまりますが、飲食業者が店内に自動販売機を設置し、飲料を販売する場合は第四種事業に、自動販売機を設置して手数料収入を得る場合は第五種事業に該当します。
③ 第三種事業
第三種事業には、農業、林業、漁業等が該当します。
また、それ以外で言うと、建設工事の元請、あるいは新聞や書籍の発行、出版なども、第三者事業として扱われます。
もっと細かく言うと、製造業を行う事業者が、作業中に生じた副産物や加工くず等を販売する場合も、第三種事業に分類されるため、覚えておきましょう。
④ 第四種事業
第四種事業には、第一種~第三種に当てはまらない事業が該当します。
具体的には、飲食店業などですね。
また、事業者が自己使用していた固定資産の売却も、第四種事業に当てはまります。
もっと言えば、本業を行うにあたって生じた不用品などを売却し、収入を得た場合も、第四種事業に分類されます。
これらは、正式には事業ではありませんが、今後不動産を売却する事業者の方が、必ず押さえておきたいポイントの1つです。
⑤ 第五種事業
第五種事業には、運輸通信業、金融業、保険業、サービス業等さまざまな事業が該当します。
運輸通信業、金融業、保険業、サービス業に関しては、加工賃あるいはこれに相当する料金を対価とする、役務の提供を行う事業も、これに該当します。
ちなみに、金融業、保険業に関しては、以前は第四種事業に分類されていましたが、制度の見直しによって、現在は第五種事業に該当することとなりました。
また、サービス業に関しては、飲食業に当てはまるものは含まないとされており、飲食業に当てはまらないものとは、主に以下のような事業を指します。
その施設の宿泊者以外も利用可能で、なおかつその場で料金を支払える施設(ホテル内の宴会場やレストラン等)における、飲食店の提供
料金体系上、宿泊代と区別されており、料金の精算時に宿泊料とは別に領収されるものの提供(客室冷蔵庫による飲料の提供、ルームサービス等)
ただ、“1泊2食付で30,000円”といったように、宿泊代に食事代が反映されている場合に関しては、その料金の金額が第五種事業に当てはまります。
少しややこしいルールですが、しっかり覚えておくことをおすすめします。
⑥ 第六種事業
第六種事業には、不動産業が該当します。
不動産業は、制度見直しの前は第五種事業に分類されていたものです。
土地建物売買や不動産仲介、不動産賃貸業、不動産管理などは、不動産業とみなされるため、すべて第六種事業に当てはまります。
事業者が不動産売却をするにあたって、簡易課税制度を使う利点は?
簡易課税を利用する利点は、やはり何と言っても、消費税の計算が容易になるという点でしょう。
事業区分ごとに、あらかじめみなし仕入れ率は固定されているため、実際どれだけの消費税を仕入れや経費に費やしていたとしても、それを考慮せずに計算できます。
また、適用されるのはみなし仕入れ率であるため、当然ながら税優遇が受けられる可能性もあります。
その他、仕入れ税額控除のための事務負担が軽減されるというところも、簡易課税の大きな利点だと言えるでしょう。
事業者が不動産売却をするにあたって、簡易課税制度を使う欠点は?
ここまで見る限り、簡易課税に欠点など存在しないように感じますよね。
ただ、実際は欠点もあるため、そこは必ず把握しておかなければいけません。
まず知っておきたいのは、簡易課税は税優遇が受けられる可能性のある制度であると同時に、税負担が増える可能性がある制度でもあるということです。
これは、当然実際支払った消費税を考慮せず、計算が行われるためです。
また、事業者の方が不動産売却で簡易課税を利用すると、そこから2年間は、基本的に他の計算方法を利用することができなくなります。
もっと言えば、複数の事業区分に当てはまる事業を行っている事業者は、簡易課税を利用することで、計算に手間がかかってしまう場合もありますので、注意しましょう。
不動産業のすべてが第六種事業に含まれるわけではない
前述した区分で見ると、不動産業は第六種事業に該当します。
しかし、不動産業にもさまざまな種類があり、すべてが第六種事業に含まれるとは限らないため、取り扱いには注意が必要です。
不動産を売却する事業者は、不動産販売業に該当しますが、土地は消費税がかからないため、建物の売上に対する事業区分で判断することが大切です。
また、不動産の販売先が事業者である場合、卸売業(第一種事業)に該当し、消費者つまり個人への売却の場合は小売業と見なされ、第二種事業として扱われます。
その他、事業者が自社で建築した建物を売却する場合、建設業に該当するため、第三種事業に含まれます。
ちなみに、事業者が施主となり、請負契約で他の建築業者に施工してもらい、その物件を販売するケース、購入した中古物件を修繕し、販売するケースも、第三種事業です。
いずれのケースでも、第六種事業には当てはまらないため、簡易課税を利用する際は気を付けなければいけません。
安易に「不動産売却だから不動産業」という風に考えてしまうと、適応されるみなし仕入れ率が異なることから、受けられる税優遇にも差が生まれてしまいます。
簡易課税の具体的な利用方法は?
簡易課税は、誰でも利用できる制度ではありません。
利用するためには、以下の利用条件をクリアする必要があります。
前々年の課税売上高が5,000万円を下回っていること
消費税簡易課税制度選択届出書を提出していること
1つ目の利用条件を見てもらえればわかるように、この制度はあくまで小規模な事業者が、消費税の計算に役立てたり、税優遇を受けたりするものです。
そのため、常に課税売上高が5,000万円を越えるような、規模の大きい事業者は利用できません。
また、簡易課税を利用するには、必ず消費税簡易課税制度選択届出書を税務署に対して提出しなければいけません。
これは、簡易課税を利用したい事業者の方が、適用を受けようとする課税期間の初日の前日(事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間)に提出するものであり、調整対象固定資産や、高額特定資産の仕入れ等をした際には、提出できない場合があります。
消費税簡易課税制度選択届出書について
簡易課税を利用する際には、消費税簡易課税制度選択届出書という書類を提出しなければいけません。
こちらは、適用を受けようとする課税期間の前日までに提出しなければいけない書類で、提出先は納税地を所轄する税務署です。
提出方法としては、税務署に直接持ち込むか、郵送での提出も可能です。
なお、申請書類は信書に該当するため、宅配便で送ることはできません。
郵便局の窓口で送るか、レターパック、切手などを利用して送付する必要があります。
また、簡易課税の申請は、国税庁が提供するe-Taxソフトから行うこともできます。
e-Taxを利用する場合、事前に電子証明書(マイナンバーカード等)や利用者識別番号等が必要です。
ちなみに、消費税簡易課税制度選択届出書には、似たような書類がいくつか存在します。
例えば、課税事業者選択届出書、消費税簡易課税制度選択不適格届出書などがあるため、間違って他の書類を提出しないように注意してください。
消費税簡易課税制度選択届出書の書き方
簡易課税を適用するために提出する書類には、記入しなければいけない内容がいくつかあります。
具体的には以下の内容です。
①届出者の情報
②課税期間、売上高、事業内容等
③提出要件の確認
①は事業者の納税地、氏名(法人の場合は社名および代表者の氏名)、法人番号を記載します。
届出者が個人事業主の場合、法人番号の記載は必要ありません。
また、届出者の下の欄のチェックボックスは、インボイス登録と同時に簡易課税を適用する場合、チェックを入れる必要があります。
②の適用開始課税期間については、希望する適用開始日を記載し、こちらの基準期間は、適用開始課税期間の2年前の日付を記載します。
事業内容は、自社(自身)の事業内容と事業区分です。
③の提出要件の確認については、以下に該当する場合を除き、“いいえ”にチェックを入れれば完了です。
・課税事業者選択届出書を提出していた場合:“イ”にその適用開始日を記載
・設立1期目or2期目の期首段階で資本金が1,000万円以上ある法人などの場合:“ロ”に設立年月日を記載
・1単位で1,000万円以上の棚卸資産や一部の固定資産の仕入れを行っていた場合:“ハ”に当該仕入れを行った期の初日を記載
ちなみに、税理士署名については、税理士が作成代理を行った場合に署名する欄であるため、自社で作成する場合には記載不要です。
簡易課税とインボイス制度の関係について
インボイス制度とは、買い手が仕入税額控除の適用を受けるために、相手から交付されたインボイスを保存しなければいけない制度のことをいいます。
こちらは、2023年の10月1日からスタートした制度です。
インボイスは、販売先に対し、税率と税額を正確に伝えるために、従来の区分記載請求書に必要事項を追記した請求書です。
買い手がこちらを保存するのと同時に、売り手の登録事業者も、取引相手からインボイスを求められた場合には交付しなければいけません。
また、免責事業者ではインボイスを発行できず、発行されないと、取引相手は仕入税額控除を受けることができなくなるため、これまで免責事業者で、原則課税や簡易課税を気にしなかった事業者も、課税事業者になる際は選択が必要です。
ちなみに、インボイス制度が導入された後も、簡易課税制度の概要は特に変わっていません。
簡易課税の有利、不利の判断について
簡易課税の適用は任意であるため、有利かどうかを判断して適用を決めなければいけません。
一般的に、みなし仕入れ率よりも実際の課税仕入れ率が低い場合は、簡易課税が有利になります。
一方、開業当初で設備投資や仕入れが先行する場合などでは、仕入に関して算定した仕入税額控除額が大きくなる傾向にあり、簡易課税が不利になることがあります。
また、簡易課税を適用すると消費税の還付を受けることができないため、還付が見込まれる場合には、適用を受けないことを検討すべきです。
まとめ
ここまで、簡易課税の概要や事業区分、利点と欠点、具体的な利用方法について解説しましたが、いかがでしたか?
冒頭でも触れましたが、簡易課税は事業者にとって非常に便利な制度であるため、利用条件を満たしているのであれば、ぜひ利用しましょう。
ただ、もちろん利用の際には、今回解説した利点と欠点をしっかり頭に入れておかなければいけません。