違約手付における“損害賠償額の予定”について
違約手付は、手付金の一種であり、債務不履行が発生した場合に、手付金の没収または倍額償還が行われるというものです。
また、違約手付による金銭の授受は、“損害賠償額の予定”と解されていて、こちらにはさまざまなポイントがあります。
今回は、こちらの損害賠償額の予定について、詳しく解説します。
損害賠償額の予定とは?
不動産の売買契約において、売主、買主のいずれかが債務を履行しない場合に備え、あらかじめ損害賠償の金額を取り決めておくことがあります。
このように、予定された賠償金額のことを損害賠償額の予定といいます。
例えば、売買契約において、買主が違約手付1万円を交付したとき、買主が不動産の購入代金を支払わなかった場合、その1万円は没収されます。
また、売主に債務不履行、つまり物件の引渡義務の不履行があった場合、売主は買主に2万円を倍額償還しなければいけません。
このような違約手付は、前もって損害賠償の金額が決められているため、損害賠償額の予定となります。
損害賠償額の予定におけるメリット
違約手付において、損害賠償額の予定を定めておくことのメリットとしては、まず立証の軽減が挙げられます。
損害賠償額の予定を定めない場合、裁判等で請求を行うためには、実際自身にどれくらいの被害があるのかについて、証拠を揃えた上で主張、立証を行う必要があります。
しかし、これらの作業を行うには、損害の種類等にもよりますが、ある程度の労力や時間がかかり、泣き寝入りをしなければいけないというケースも出てきます。
このような労力を省けるというのは、大きなメリットだと言えます。
また、その他のメリットとしては、リスクの限定や予見につながるということも挙げられます。
違約手付において、損害賠償額の予定を定めなければ、自身の債務不履行があった場合に、どれくらいの金額を請求されるのかについて、請求されてみないとわかりません。
一方、前もって金額が決定していれば、仮に損害賠償をしなければいけない事態に陥ったとしても、いくら支払えば解決できるのかを把握できるため、冷静に対処することが可能です。
もちろん、売買契約の相手方に法外な金額を請求される心配もありません。
損害賠償額の予定の書き方について
損害賠償額の予定については、不動産の売買契約書にその内容を記載しておく必要があります。
また、記載方法の例については以下の通りです。
「(損害賠償額の予定)
第〇条 本契約において、乙の重大な過失により、甲が損害を被った場合、乙は甲に対し、損害の発生に係る個別契約の報酬の額の範囲内において、その損害を賠償する」
「(損害賠償額の予定)
第〇条 甲の重大な過失により、本契約から生ずる乙の損害に対しては、甲は第〇条第1項第1号の報酬の倍の範囲内において賠償する」
契約自由の原則により、原則として、当事者間で契約を自由に定めることができます。
こちらは、損害賠償額にも言えることです。
また、損害賠償額の予定が一度成立すると、裁判所でも当事者間で予定した損害賠償額と異なる金額を認定することはできません。
ちなみに、損害賠償額の予定があったとしても、債務不履行があった場合、債権者は損害賠償ではなく履行を請求したり、契約を解除したりすることが自由にでき、必ずしも損害賠償の請求を行わなければいけないというわけではありません。
損害賠償額の予定等の制限について
個人間の不動産売買ではなく、宅地建物取引業者、いわゆる不動産会社が売主となる不動産売買では、契約の解除に伴う損害賠償額の予定、違約金を定めるとき、その合計が売買代金の額の2/10を超えてはいけないというルールがあります。
損害賠償額の予定や違約金は、とても高額になることがあり、宅地建物取引業者とは違い、不動産取引に精通していない一般消費者は、これらによって不測の損害を被る場合が考えられます。
そこで、宅地建物取引業法第38条では、宅地建物取引業者が売主で、それ以外の者が買主である場合には、不当に過酷な損害賠償額の予定、または違約金を課すことを禁止しています。
つまり、こちらの制限は、不動産売買の知識が潤沢ではない買主を守るためのルールだということです。
また、同じく宅地建物取引業法第38条には、「前項の規定に反する特約は、代金の額の2/10を超える部分について無効とする」と規定されています。
そのため、もし売買契約書の中に、売買代金の2割を超える損害賠償額の予定、違約金の支払いを求める記載があったとしても、自動的に代金の2割にまで縮減されます。
ちなみに、このような場合でも、不動産売買契約そのものは有効なまま維持されます。
まとめ
ここまで、違約手付における損害賠償額の予定について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
損害賠償額の予定は、不動産売買を行う売主、買主のいずれにとっても、ある程度のメリットがあるものです。
また、個人が不動産会社などの宅地建物取引業者と売買契約を交わす場合には、高額な損害賠償の負担から守ってくれる重要な取り決めにもなります。